小野選手が所属するワタナベジムは五反田駅の真ん前にある。ホームから練習を見ることができるということで有名だ。雑居ビルの数フロアを使った練習場はお世辞にも広いとは言えないが、WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志、WBAスーパーフライ級王者の河野公平、WBC世界ライトフライ級女子元王者の富樫直美が在籍し、数多くの東洋太平洋チャンピオン、日本チャンピオンを輩出してきた名門ジムだ。ここで小野選手のトレーニングを見せてもらった。
普段はアルバイトが終わってから19時ごろにジムに到着する。プロボクサーとは言っても、ファイトマネーだけで生活できるのは世界チャンピオンなど本当に一握り。ほとんどのプロボクサーはアルバイトや会社務めをして生活費を稼ぎながら、明日を夢見てトレーニングに励むのだ。小野選手も近所の飲食店でアルバイトをしているという。
トレーニングウエアに着替え、バンテージを巻くとリングのあるフロアに降りてくる。狭いフロアにはリング、鏡張りのエリア、サンドバッグ、パンチングボールなどが配置され、プロ選手でごったがえしている。部屋の隅にゴングがあり、自動的に3分間ごとにベルが鳴る。全員が3分間一斉にトレーニングに打ち込み、1分間休む。試合と同じ時間配分になっている。オンの3分間はおしゃべりをする人はおらず、トレーナーの声だけがジムに響き渡る。一般的なスポーツジムとはまったく異なる、ストイックな世界だ。
軽くストレッチして小野選手はシャドーボクシングに取りかかった。だいたい5ラウンドほどシャドーボクシングに打ち込む。シャドーボクシングはボクシングのトレーニングでは基本中の基本。身体が温まってきたところでミットだ。4から6ラウンドぐらい、トレーナーのミットめがけてパンチを繰り出す。いつもはにこやかな小野選手の顔が、ゴングが鳴ると引き締まって戦う男の顔になる。練習といえども3分間は真剣勝負なのだ。
この日はミットを3ラウンドぐらいで切り上げ、マス・スパーリングに移った。空手でいえば寸止め。相手に当てないようにしてパンチを繰り出す、かなり実践的な練習だ。スパーと違って当てないのが前提だから、お互いに防具は着けない。
減量時には水を飲まずに体重をそぎ落とすわけだが、普段の練習時には脱水状態にならないよう、ひっきりなしに水を飲む。汗かきだということで、こまめにタオルで汗をぬぐい、シャツを着替える。この日、2時間のトレーニング中3枚のシャツを着替えた。
パンチングボールや珍しくサンドバッグをこなし、最後にマットで腹筋や腕立て伏せなどフィジカルトレーニングをやってトレーニングは終了。時刻は21時を回ったぐらい。意外と1日のトレーニング時間は短い。3分間全力投球の繰り返しだから、そんなに長時間トレーニングはできないのだ。そういえば他のプロ選手もほとんどが引き上げ、フロアは閑散としていた。
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