集中力を発揮して難しいルートをやる日、やさしいルートでいい動きを追求する日、持久力のために本数多く登る日と、テーマを決めて区切りをしっかりつけるのがいいでしょう。
若い子たちはやたら本数登るけれど、我々は、荒い雑な登りを数多くするよりは、集中力トレーニングした方がいい場合もあります。
私はどちらかというと、本数は出せないけれど、集中力は高いような気がします。落ちそうになっても、うーんと粘って取りに行く。そういうおやじっぽいクライミングが得意な方なんですよね。絶対落ちない、どんなことがあってもしがみついてやる、と思って1本1本やる。かと思うと、今日は5.11台を20本登るだけ、帰りにマッサージしてもらい、お風呂には20分入ってビールも飲んじゃう、という日もあります。そういう風に、テーマを変えることが案外必要だと思いますね。
テーマということに関しては、こういう話があります。例えば持久力を鍛えるには、毛細血管トレーニングが必要です。毛細血管を発達させて、筋肉の中から乳酸を排出する能力を高めてやるのが目的です。
このためには最大筋力の30%以下の運動を2、30分以上やるというのが、最良にして唯一の方法だそうです。これは相当やさしいボルダリング、絶対パンプさせない、前腕が疲れたなと感じないくらいの負荷でずっと続けるのが、それに当ると思います。
しかし一方、持久力のアップには、強い負荷で筋力を上げるトレーニングも必要です。乳酸発生閾値(LT)といって、乳酸が発生しだす値というのがあるのですが、最大筋力を上げるとLTも自然に高くなります。ですから最大筋力を上げるトレーニングもしなければいけない。
また同時に、持久力のアップには、中間程度の負荷でパンプを繰り返すトレーニングも必要です。『クライマーズ・ボディ』37ページにある、細胞レベルでの乳酸排出能力のアップですね。
これらは最終的には同じ目的のものなんだけれど、トレーニングとしては全然逆のトレーニングなんですよね。片方は強い負荷をかけてはいけない、もう片方は強い負荷をかけなければいけない。で、注意しなければいけないのは、これらは同じ日にはできないということです。日を分けてやらなければいけない。つまり、いわゆる持久力を総合的に得るには時間がかかるんです。だから、おやじみたいな人たちがうまくなる。長い時間かけてやってきたから、出来るわけです。
リハビリテーションは難しいですね。リハビリで悩まれてる方もいると思います。リハビリは焦らないこと。よく筋肉が落ちてしまうと不安になる人がいますね。しかし実際には筋肉は落ちないんですよ。たとえば、スポーツ選手がケガして1年間くらい戦力外通告受けてリタイヤしてますよね。だけど、1年後に復帰してきたら、元通りのパフォーマンスを発揮してますよね。
これは筋肉の細胞、その遺伝子の中に、負荷の記憶、発達しなければだめだという記憶が出来ているからなんだそうです。だから筋肉は過負荷の原則で発達していくわけなんだそうですが、この記憶は案外長持ちするそうなんです。何年どころか、子供にまで伝わることもある。だからケガをして動けない時間というのは、あまり気にしない方がいいと思います。それよりも、ケガした人が焦って、まだ治ってないうちから、一生懸命トレーニングする方がよくない気がします。もともとケガするにはケガするなりの、故障するには故障するなりの、悪い動きという理由があって、それが体が充分でないうちに運動すると余計増幅する恐れがあるからです。
私も『クライマーズ・ボディ』にはアイシングは必要と書いたんですけども、これに関しては個人的にはちょっとわからないです。
というのは、ヨーロッパのサッカーチームでは今はあまりアイシングはしないという話をある人から聞いたことがあります。私自身も持久力系の運動したあとに、アイシングはまずしません。お風呂に入る方が疲れはとれるような気がします。
ただ、怪我や打撲、関節に過負荷がかかったときの炎症というのは、アイシングが絶対です。
自分の体質と相談すればいいでしょう。私が二子のミイラ(5.13c)を登ったときは、前の日にみんなでド宴会して、二日酔いでふらふらで登りました。ゲロ吐きそうな状態で、人がやるので自分もやったら、登れてしまった。体重も今までで一番重かった。このくらいのグレードなら、あんまり気にしなくていいのではないですかね。
そういう医者はやめて、ちゃんとクライミングを理解してくれる、プロが行くようなスポーツ整形に行った方がいいです。クライミングをやめろとか、趣味を変えろとかいう医者は、扉蹴破って出てくればいいんです。クライミングを続けるためにわざわざそこに足運んでいるのですから。止めろと言われて、止まるのであれば来ませんよ。医者を選びましょう。
だいたいクライマーって指が曲がっちゃっていますね。こないだ友人の室岡省吾君に聞いたことなんですが、指が曲がったまま伸びなくなるのは、指を伸ばす側の腱、これが本来は関節の上側を通っているものが、強い負荷で指を曲げ続けると、これが関節の内側にずれてきてしまうんだそうです。それで指がまっすぐ伸びなくなってしまうと。だから、指を外側に反らす運動をやっていると、腱が上側に戻って、指が伸びるそうです。平山ユージ君は指が曲がってないんです。どういうケアしてるのかと聞いたら、やっぱり伸ばすと言ってました。ただ、太くなってしまったのは変形性関節症、もしくは老化ですからこれとは関係ないでしょうけど。
ちょうど時間になりました。これ以上知りたい方は私のガイド講習(菊地敏之 クライミングスクール&ガイド)を受けてください。今日はどうもありがとうございました。
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